―――もしかして、姫宮も自分のことを好きかもしれない・・・ただ、それをストレートに認めるには、あまりに抵抗があるのでは・・・。
つまり、兄弟だから、とか男同士だから・・・などという、一般常識やモラルや既成概念が邪魔している・・・・、それを取り払えばあるいは―――という可能性に司は賭けてみることにした。
けれど、あくまでそれは司に都合の良いように解釈すれば、という話であり、絶対的な確証が掴めるまでは、欲望にのみ流されるわけにはいかない。
ここで調子に乗って軽はずみな行為をしたら、元の木阿弥になってしまう危険性も充分にあるのだ。
司は本来、こんな面倒くさい策士めいたことを考えるタイプの人間ではない。
どちらかといえば、あまり物事を深く考えない猪突猛進タイプである。
しかし、相手が姫宮となると必然的に勝手が違ってくる。
何故ならば、猛進などしたら即返り討ちに合うのがオチだからだ(しかも倍返し・・・)。
だから、司の全ての英知を駆使して対峙しなければどうにもならない。
たとえそれが、どれほど卑怯だろうが、ズルかろうがそんなことは言っていられない・・・・―――。
格好良い正当法などを考えていたら、潔癖で、常識的で、ノーマルな姫宮を落とすなどということは、到底無理だろう。
姫宮を攻略する為には、そのウイークポイントを突く以外にない。
姫宮のウイークポイントとは即ち、優しすぎてつい情にほだされるところ、である。
なんのかんの言いながら、姫宮が冷徹に司を振り払えないのはそのためである。
同じ人間の遺伝子を受けながらも、こうまで自分と違うものかと司が感心するほど姫宮との相違点は山ほどあった。
育った環境と母親が違うから、と言ってしまえばそれまでだが・・・・。
司はベッドに座った姫宮を真正面から見据えると、
「じゃあ、いくよ」
と、最終確認をした。
「―――うん・・・」
姫宮はまだ少し納得いかないような複雑な表情を浮かべながらも、小さく頷いた。
司は「よっしゃあ!!」と心の中でガッツポーズを決め快哉を叫んだ。
しかし表面ではあくまで冷静にクールを装いつつ、顔を近づけていく。
今までプライベートや仕事で、数十回以上(数えたことはないが)女性とキスしたことのある司だが、こんなに緊張するキスは生まれて初めてであった・・・。
触れた唇は想像以上に柔らかく、司の身も心も・・・全てを溶かすような不思議な感覚――今まで姫宮からもらった痛みを全て補ってもまだ余りある程の甘い心地良さを司に与えた。
緊張が解かれた快感は、やがて抑えきれない興奮へと移行していく・・・。
雄のみが持つ本能的な征服欲が、波のようにうねり寄せ司の脳内を支配する。
―――姫宮・・・俺のもの・・・・・・・
唇を強く重ね合わせたまま、司の舌は歯並びの整った姫宮の歯を嘗め回す。
なんとかこじ開けようとするが、それは強固に司を拒んでいる。
業を煮やした司は一旦、唇を離した。
「―――おい・・・!」
思わず怒鳴りかけた司だったが、姫宮の顔を見た途端言葉を飲み込んだ。
姫宮は、顔を真っ赤にして硬直している―――。
「・・・姫宮?」
司が声をかけると、姫宮は突然すごい勢いで立ち上がった。
思い切り不意を突かれた司は、バランスを失って後ろによろけた。
「―――もう、いいだろ・・・?これ解いてくれよ」
「・・・・・は?」
司は驚くより呆れた。
―――まさか、今のを姫宮はキスだとでもいうんだろうか・・・・?
「もう、気が済んだだろ・・・・?」
「―――・・・・」
「司、早く解いて・・・」
司は何も答えず黙り込んだままである。
姫宮の声音は段々哀願を帯びてきた。
「・・・司・・・もう悪ふざけはいい加減に―――」
「姫宮、生憎だけどな、俺はこれっぽっちもふざけてなんかない。最初っから本気だ。何度もそう言っただろうが・・・・。お前だって、分かってるだろ?認めるのが怖いから認めたくないだけで、本当はもう分かってるはずだ。そうだろ・・・?」
「―――・・・司」
「さっきの・・・あんなのはキスには入らない。俺は認めない」
「・・・司・・・もう、勘弁してくれよ―――頼むから・・・」
「いやだ。認めない、絶対に」
「―――司!」
「あんなキスがあるか?あんなのはキスじゃない」
「・・・・・・」
司に断定され、姫宮は言葉を失った。
そして、仕方なさそう暗澹たる表情で再びベッドに腰を下ろす。
待ちきれないように、司は顔を寄せて言い渡した。
「姫宮、舌出して」
「―――え・・・!?」
姫宮は瞠目して、救いを求めるように司を見た。
しかし、司は全く容赦しない。
「早く」
司に鋭い目で睨まれた姫宮は、もう何を言っても無駄だと観念したのか、それともこの我がままな暴君に見込まれたのが運の尽き、と悟ったのか・・・目を閉じると、大人しく言うとおりに舌を出した。
赤い舌を出した姫宮の少し上気した綺麗な顔は、それだけで充分すぎる程司の目にはエロチックに映った。
まるで、自分から「早くして」と誘っているようにしか見えない。
その様子を司は満足気にじっくりと堪能してから、自分も舌を出して姫宮に絡めた。
めったに食べられない極上の料理のように、司は姫宮の舌をゆっくりと、とことんまで味わい尽くしてやるつもりだった。
「・・・ん、うっ・・・・っ」
途中で姫宮が苦しそうに唇をはずそうとしたが、司は後頭部をがっちり押さえ込んで逃がさない。
両腕が使えない姫宮は、抵抗どころかもがくことすらままならず、司の舌が遠慮容赦なく口腔内の奥にまで侵入してくるのをどうしようもなく受け入れるしかなかった。
to be continued....